243. 海で8時間過ごした男の末路(下)

これは、ある天気の良い週末の日に、海で8時間過ごした男の物語。

眠れやしない

前回の話の終わりに「太陽の恵みをいっぱいに受けて、おぬまは安らかに眠った」などと書いていたが、

その実、一睡もできやしなかった。

まず、暑い。暑すぎて眠れない。それが1つ。

そして、岩の上で寝転がっていたのだが、いくら大きな岩といってもその大きさには限りがある。

もし眠っている間に寝がえりを打ったら、2回で海に落ちるだろう。

そんな状況でスヤスヤと眠れるだろうか?

崖の上に謎の建物

もう1つ、懸念事項としてあったのが、背後の崖の上にある、謎の建物の存在だった。

これは妄想だが、もしもその建物がアウトローの住処で、崖下に寝ているおぬまを見つけて、

「ネズミが一匹迷い込んでいるぞ。始末しろ」「へい」

という流れになって、頭上から岩を落とされるか、あるいは弾丸を撃ち込まれるかもしれない。

ほぼあり得ない話だが、けっこう立派な建物であるようだったし、謎の建物でもあったので、勢いそんな想像も膨らんだ。

あとで崖の上に行ったときに見てみたが、モダンなデザインの広い家っぽい印象を受けたものの、それが実際に何であるのかは結局わからなかった。

深江を去る

深江の岩場には、3時間くらいいた。

そのまま夕陽が沈むまでいようと思っていたのだが、

「そういえば深江海水浴場の駐車場って17時に閉まるよな」と思い出し、もし閉まったら自転車を出せなくなることに気がついた。

深江から家まで歩くと、かなりかかる。電車で帰れば良さそうなものだが、悪いことにスマホも財布も持ってきていなかった。

だいたい、海で瞑想するのにそんなものは不要だろう。食糧すら持っていなかった。

まだ14時すぎだったが、ボーっとしているとあっという間に夕方になってしまう(実際11時から14時までも一瞬だった)ので、

手遅れになる前に自転車を回収しておくことにした。

本当は自転車を岩場か付近の砂浜まで持ってこようと思ったのだが、どちらにしても困難であることがわかったので、そのまま深江を去ることにした。

加布里に遊ぶ

さて、深江を後にしたが、このまま家に帰る気はなかった。

今思えばここで帰っておけばよかったのだが、帰り道の途中にある加布里の海を、今度は訪れた。

そこでも3時間ほど過ごし、瞑想や筋トレ、踊りを楽しんだ。

ところで、加布里に着いたときちょうど引き潮だったので、海のそばまで行って寝ていたのだが、

ふと目を開けると、潮が満ちてきて自分のいる砂浜が「島」になりかけていた。

危機一髪、まだ細い川を飛び越えて脱出したが、

1時間くらい後に、かつて自分がいた場所を見ると完全に海の底に沈んでいた。

危なかった・・・。

真っ赤に燃える肌

加布里にいるころから、少しずつ日焼けが目立って来ていた。

午前中に深江で日に当たっていたとき、最初は半袖のシャツを着ていたので、まず赤くなったのは半袖で出ている腕の部分のみだった。

しかしだんだん二の腕も赤くなってきて、ひりひりしてきた。

普段はテニスやサイクリング少しずつ焼くのだが、今回はかなり長時間、海で焼いてしまったので、身体が燃えるように熱かった。

広がる痛み

家に帰ると、日焼けはさらにひどくなった。

特に、普段長ズボンを履いていて日にさらすことのなかった「すね」の部分は、風に当たるだけで激しい痛みを引き起こした。

日焼けは少しずつ広がっていく。

腕、肩、すね、顔、首、おなか(へそのあたりだけ)、脇・・・。

深江の岩場では上半身裸になっていたのだが、なぜか胸や肋骨のあたりは、ほぼ1週間たった今も焼けていない。

踊りは休業

痛みはすねが特にひどく、ズボンに擦れるだけでも苦痛だった。歩くのも困難で、踊るなどまず無理だった。

そういうわけで、これまで毎日鬼のようにやっていた筋トレと踊りは、しばらく休まざるを得なくなった。

半年以上、欠かさずに投稿していたYouTubeも、わけを話して2週間休ませてもらうことに。

自分にとって「踊れない」というのは、手足をもがれたようなものだった(実際もげそうなほど痛かった)。

しかし最近は暑い部屋の中で6時間踊ったりしていたので、むしろ踊りを続ける方が危険だったかもしれない。

そう考えると、今回の過度な日焼けも運命だったのではないかと思える。

日焼けは少しずつがオススメ

日焼けは少しずつがオススメだ。これは、今回身に沁みてわかったことである。

あの日、8時間海で過ごしてから、全身が火照ったように暑い日が3日続いた。

最初の内は痛くて痛くてたまらなかった。お風呂にはゆっくり入れないし、歩いたら足がつるし、人や物にぶつかるだけで絶叫していた。

3日経つと、痛みはだいぶ治まったが、今度は全身がかゆくなった。

そして、顔の皮が剝がれてきた。それはかなりひどい状態で、南方民族の入れ墨のようになっていた。

当然というか何というか、授業は欠席した。

哲学の大西先生は「僕も魚釣りで同じようなことをやるので、気持ちはわかります」と、なぜか共感してくれた。

ラテン語の先生には「なんと8時間も・・・驚きました。今後はこうならないように気をつけましょう」とたしなめられた。

繰り返すが、「日焼けは少しずつ」がオススメだ。間違っても、自分のように8時間も海で過ごさないことだ。

もし過ごしたければ、「日焼け止め」を塗るといい。あまり塗ったことがないので効果は不明だが・・・。

(「海で8時間過ごした男の末路」おわり)

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