2023年2月8日の記録
この気持ちは何だろう。
何となく張り合いがなく、胸の奥でくすぶっているような、この気持ち。
いや、くすぶるどころか、まだ燃え始めてすらいないかもしれない。
体調が悪いわけでもなく、お金に困っているわけでもなく、いつものように体を鍛え、本を読み、ご飯を食べる生活。
どれを取っても何か不足があるようには思えない。しかし、心は怏々(おうおう)として楽しまない。
天気が良かったので、とりあえず外に出てみたら気が晴れるかもしれないと思い、靴を履いて家を出た。
白糸の滝まで
「白糸の滝まで行ってみるか」
ふと、そんな気持ちになった。調べてみると、白糸の滝まで2時間50分かかる。まあ、19時くらいには帰り着けそうだし、行けないこともない場所だった。
実際に滝までたどり着けるかどうかよりも、一歩でも前に踏み出すことが大事だと思い、歩きはじめる。
マルショクを越え、カシェットを、やますえを通り過ぎていく。
南の道に出ると、時折何かを満載したトラックが、白色や黄土色の煙を残して走り去って行った。
そのたびに咳き込みながらも、何とか一歩一歩、進んでいった。
1時間ほど歩くと、ファミリーマートが見えてきた。これから山に入るので、入山前最後のコンビニということになるだろう。
道端で何かひとりごとを言いながら寝転んでいる小学生の女の子を横目に、トイレをするためにコンビニに駆け込んだ。
ただトイレをするだけでは何となく申し訳ないので、「クリーム玄米ブラン ブルーベリー味」を1つ買って店を出た。
山が近い
そこから先は、ほとんどお店が見当たらない。
ちょうど下校中の小学生たちを追い越しながら、だんだんと道を上っていくと、民家すらも稀になってきた。
山が近い。
空気が澄んでいて、神秘的でさえある。
道の上を歩きながら、ふと「そうだ、かつて佐賀まで自転車で帰ったとき、通った道はここではないか」と気がついた。
糸島から佐賀に出るには、いくつかのルートがある。
これまでは「王丸の駅」というお店がある方のルートだったと勝手に思い込んでいたが、道の形や田畑の景色からして、いま歩いている道に違いない。
かつての無謀な試み
そういえば、以前この山を越えたときも、入山前最後のコンビニで「クリーム玄米ブラン」を買って、山の中で食べた。
そんなことを思いながら、この日も山道の途中で「クリーム玄米ブラン」の袋を開けて食事をとった。
かつて山を越えたときは朝も昼もご飯を食べておらず、「クリーム玄米ブラン」1袋で乗り切ったのだった、と思い出した。
あれは6月の暑い日だった。よくそれだけの食糧で耐えられたなと、改めて自分の無謀さに驚いた。
道はどこまでも続く
道はどこまでも続く。
ときどき窓を開け放して歌う車や、2人乗りのバイクが横をかすめて行った。
車やバイクの速さに比べれば、人間の足など、たかが知れている。だが、歩き続ければいつか、同じ場所に到達できるだろう。
それにしても、山中の空気の清浄さと言ったら、街中の比ではない。久しく触れていなかった清々しいものに触れ、心の中の雑念がふっと消えていく気がした。
痛みに耐えて
だんだん右足が痛くなってきたが、ときどき立ち止まって休むだけで、引き返そうとは少しも思わなかった。
考えてみると、人生の大事というのはいつ訪れるかわからないものだ。そのとき、自分の心身が万全の状態であるとも限らない。
「今は調子が悪いから、また今度」とはいかないことも、人生にはある。
それを思えば、少し足が痛いからといって音を上げるのは、一種の甘えであるかもしれない。
痛みを忘れるためにも、しばらく黙々と歩いた。
たつのめばし
相変わらず、目の前には美しい景色が広がっている。ここにいると、目が洗われるようだ。
やがて日が傾いてきたので、「これ以上進んだら、日が暮れる」と思い、「たつのめばし」という橋で引き返した。
そこは糸島市長野というところだった。
帰り道
山は上りはゆっくりだが、下りは速い。あっという間に麓に出た。
夕焼け空を見ながら歩くのもまた、心地が良い。
帰りにもう一度、行きに寄ったファミリーマートでトイレを借りた。そして行きと同じように、今度は「クリーム玄米ブラン ココア味」を買って店を出た。
今日という1日のことについて漠然と考えていると、あっという間に「カシェット」まで戻ってきた。
それは、あっという間ではなかったかもしれない。かなり長い時間を歩いた気もするが、もはや忘れてしまっている。
家の近くまで来るとさすがに、足が棒のようになって歩みが鈍くなった。
横断歩道は、足を引きずるようにして渡った。
鍛錬が肝要
家を出発したのが14:30くらいで、帰り着いたのが18:16。片道7.4キロ、往復で15キロくらい歩いていた。
歩くこともまた、鍛錬が必要だ。
これから長く歩き続けていく中で、もっと頑健な身体をつくっていきたいと思う。
いつか白糸の滝まで、そしてその先までも歩いてみたい。
(「歩くおぬま(6)」終わり)
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